kitakamiシリーズの産地、東北へ【前編】

2023.02.28

小泉誠さんから「相羽建設の社屋の広葉樹の床・壁材を製造している登米町(とよままち)森林組合に行きませんか?」とお誘いいただき、ご自身の手がける家具シリーズkitakamiの産地を巡る旅に同行させていただきました。

書き手:中村桃子(相羽建設・武蔵野美術大学小泉誠ゼミ卒)

■登米町森林組合とkitakamiチーム

東京駅から東北新幹線で約2時間半、仙台よりも少し北に位置するくりこま高原駅に到着。登米町森林組合のある登米(とめ)市は人口約75,000人の林業が盛んな地域です。特にスギやナラが多く、標高400〜500mほどのなだらかで林業に適した山が多いこともその要因だそう。地域材を活用した有名建築家設計の建物も地元の名所として市内に点在しています。

「登米町森林組合の拠点があるのは登米(とめ)市 登米(とよま)町。同じ漢字なのに読み方が違うのがややこしい、というトークがお決まりですよ」と、kitakamiシリーズを担当する登米町森林組合の會津さん。大学で建築を専攻されていた際、広葉樹が市場にほとんど出回っていないことから、10年ほど前に登米町森林組合で広葉樹の伐採・製材・加工・流通に取り組みはじめました。

雨の中で出迎えてくださったのが、kitakamiシリーズの仕掛け人である鹿野さん。鹿野さんは大手メーカー勤務を経て、仙台市内に「アンダイ」という国産木製家具とクラフトのインテリアショップを経営されています。ご自身のノウハウを活かしてつくり手や地域の点をつなげ、ものづくりのきっかけを生み出していく鹿野さんは、小泉さん曰く“切込隊長”。

そんなお二方と小泉さんがタッグを組み、東北の広葉樹を使って東北の工房でつくる地域産業をベースとした取り組みがkitakamiシリーズです。

森林組合の加工場に到着すると、雨晒しになった木材が天然乾燥されていました。天然乾燥で雨に晒すとシブが出るほか、紫外線が当たると反りが和らぎ組み立てる時の狂いも少なくなります。「広葉樹は伐採に手間がかかります。曲がっているので木取りできるところが少なく歩留まりも良くないため、国産材の流通はとても少ないです」と會津さん。kitakamiの曲木椅子に使用するナラ材は2本の曲木を組み合わせたデザインで、前脚の材が2600mm後ろ脚が2000mmもあります。これほどに長い天然乾燥のナラはとても希少です。「実際に加工するまでうまく曲がる良材かどうかもわからないところは、自然素材を使用するリスクと言えます。ですが、木材の多様性やおもしろさは広葉樹にこそあると思っています。色味はもちろん、木目の幅や密度など、同じ樹種でも個体差が大きいのは広葉樹です」

東日本大震災後、復興庁や震災復興支援事業からの支援で太陽エネルギーを使用した木材乾燥ハウスが導入されました。登米町は降雪こそ少ないものの、冬は気温が氷点下まで下がる地域。ハウスを導入して昼夜の気温差を緩やかにすることで、木材の割れを最小限にとどめているのだそうです。

■登米の山に入る

昼食はおにぎりやサンドイッチを持って登米の山へ。山道は幅も狭く整備も最小限のため、道中の車内はまるでアトラクションに乗っているかのよう。會津さんの運転で森のなかへぐんぐん進んでいきます。麓のほうは植林された針葉樹の森。たまに、森へ入るための小道や小さな川に橋代わりの木材が置かれていて人の入った跡を感じます。山頂付近には広葉樹がたくさん。広葉樹は自然の力で生えてくるため植林の必要は無いのだそう。隣同士に異なる樹種が生えていたり姿形もさまざまなため、自然がそのまま反映された豊かな森。鹿が角を研いだ大きな跡のついた樹木も見受けられました。切り株に座って、新鮮な空気の中でいただくおにぎりは格別です。(ちなみにセブンイレブン地域限定の牛タンおにぎりをいただきました。)

森林伐採に適しているのは冬。樹木が水を吸い上げる量が減少する休眠状態の樹木を伐採することで品質を保つことができます。伐採・植林をして木々が大きく育つまで約50年。つまり、次の伐採で同じ山に入るまでには約50年の期間が空くことになるのです。登米町でも大きな被害を受けているナラ枯れも、年々北上しているのだそう。ナラ枯れのあった木は本来建材として使えなくなってしまいますが、kitakamiシリーズには敢えてこのナラ枯れ材の個性を活かしたワークチェアもつくられています。「虫食い材や枯れ材の需要も自然素材ならではの個性として許容すべきという意見も多く耳にします」と小泉さん。

■ソファーのクッションをつくるグランコーポレーションへ

1日目の夜に伺ったのが、kitakamiソファーをはじめとするkitakamiシリーズのクッション部分を製造するグランコーポレーション。「グランコーポレーションはクッションの製造は一貫生産できるところが強みです」と語るのは同社社長の半田さん。クッションの製造は裁断・縫製・中身作り・中身入れと大まかに4つの工程にわかれており、工場内も工程ごとにエリア分けされ、縦長の空間になっています。

裁断は生地の柄や素材、ロットによって2種類の裁断機を使い分けているそう。「基本は支給された生地を使用するので失敗できない緊張感があります。縫製も、裁断同様に生地の性質によってミシンを使い分けています」と半田さん。クッションの中身には綿・ウレタン・フェザーから、要望や費用を踏まえて検討され、クッションの柔らかさは生地・中身・薄さのバランスによって決まります。

今回の訪問の一番の目的は製作中のソファーのチェック。座り心地を中心に細部まで確認していきます。「このソファーは座に比べて若干背が柔らかいです」と半田さん。ソファーには背と座の黄金比があるのだそう。ソファーベッドとして背のクッションを取って枕代わりにもできる仕様にこだわる小泉さん。「木部の曲面が1Rずれています…!」と細密なチェックが続きます。

kitakamiシリーズ・右の椅子が曲木椅子
太陽エネルギーを使用した木材乾燥ハウス『ToSMS』
登米の山
會津さん(写真左)に連れられ広葉樹の森へ
半田社長に工場をご案内いただきました
試作中のソファーを試すkitakamiチーム
kitakami ワークチェア

kitakami ワークチェア

テレワークを意識して開発した家具となります。
一般家庭に置いてもおかしくないデザインとコンパクトな大きさが特徴。小泉誠さんらしいシンプルなデザインになりました。
スタンダードタイプには小節が含まれています。また、場合によっては虫食いの跡が残ったものをご提供することもできます。(アンダイホームページより抜粋)