kitakamiシリーズの産地、東北へ【後編】

2023.03.27

小泉誠さんからお誘いいただき、ご自身の手がける家具シリーズkitakamiの産地を巡る旅に同行させていただきました。前編をまだ読まれていない方はぜひこちらからご覧ください。

書き手:中村桃子(相羽建設・武蔵野美術大学小泉誠ゼミ卒)

■秋田木工

秋田木工は、ドイツ人のミヒャエル・トーネットが発明した『曲木工法』を受け継ぐ日本に現存する唯一の工房です。明治時代に海外からカフェやレストランの文化が流入し洋家具の需要が増えたことが、日本で技術を受け継ぐきっかけとなりました。当時は曲木工法を用いた工房が国内に点在していましたが、現在は材料となるブナ林が身近にある秋田木工だけが残っています。偶然私の家にも古いトーネットチェアがあるのですが、軽くしなやかで一人暮らしの物が少ない殺風景な部屋を曲木の椅子が良い雰囲気に演出してくれています。

秋田木工が技術にとどまらずデザインを意識したものづくりを始めたのは、剣持勇氏をはじめとする著名なデザイナーと関わるようになったことがきっかけ。職人さんたちも製造業という意識からものづくりという自覚に変わっていったといいます。乾燥・製材・金型製作・蒸し・曲木・乾燥・削り・やすり・塗装といった一連の工程を経て、一度曲げると形が戻らない木の性質を活かして職人の手仕事で曲木を施していきます。「曲木の良さは軽さと丈夫さです。蒸して柔らかくなった木がもう一度乾くことで強度が増し、構造的にも強くなります」と秋田木工社長の風巻さん。人工乾燥した材は曲木を施すにはもろく、天然乾燥の材を使うことが鉄則だといいます。「kitakamiの曲木椅子は、強度と美しさ両立した曲木工法ならではのデザインです」と小泉さん。「小泉さんの椅子は二つのパーツで座面を固定しなければならず、逃げが効かないためとても製作の難易度が高いです。その分、出来上がった時の達成感と美しさはひとしおです」と風巻さん。

2023年で創業111年目を迎える秋田木工。現在は64名のスタッフが働いています。曲木のものさしとなる金型づくりも内製化することで、ものづくりの精度を向上させています。大きな機械1台のみで鉄の板を打ちながらデザイン・設計に沿って整形していく金型づくりはまさに職人技。職人の天童さんは、出来上がった金型の試作を興味深げに見つめる小泉さんに、ニコニコしながら「ぜひお持ち帰りください」と一言。天童さんの技術と温和な人柄が椅子の美しさに現れています。

筒状の釜から大量の蒸気が出ている、曲木工程のエリア。蒸気を含んだ木材を絶妙な力加減で曲げていく作業は機械には成し得ない職人技です。その後、乾燥の工程を経て、削り、やすりで仕上げ、ようやく見覚えのある椅子の姿へと組み上げられていきます。天然の広葉樹を活かした家具づくり。色合い、質感や木目といった素材の個性は、機械ではなく職人の目と技術を駆使することによって魅力が引き出されています。製作過程で出る端材を燃料として使用することで、重油の使用を削減しています。基本的に工場稼働中は380度の釜で一日中燃料を燃やして蒸気を発生させているのだそう。木材を扱う工場ならではの端材活用は、環境に配慮した取り組みです。

■東北ならではのものづくりって?

「kitakamiの取り組みの中心である會津さん・鹿野さん自身が、東北らしい家具づくりを体現しています」

小泉さんに『東北らしい家具づくり』について質問すると、このような答えをいただきました。

會津さん・鹿野さんは小さな頃から宮城で育ち生活されてきました。「伐採して次の木が育つまでの山のサイクルは30〜40年。その間に生態系や環境が変わり、伐採のルールも変わることがあるかもしれません」と會津さん。山と共に暮らしているからこそ日々感じる変化があると言います。今年度も補助金が激減し想定していた1/3の伐採にとどまっている現状や、森が上手に更新されない林業の課題もある中で、それを打開し伐採から製造まで一貫した広葉樹のものづくりを伝えていきたい。その想いこそが、kitakamiの家具づくりの原点なのだと感じました。

■共感を呼ぶものづくり

小泉さんとのワークチェアの開発にあたって鹿野さんは「オフィス家具は腰をサポートすることが必須。これまで家具やプロダクト製作で培ってきた経験や知見を元に、會津さんのものづくりをサポートしています」と語ります。一方で製作側の覚悟も必要だといいます。「やりたいことをやるにはしっかり説明して理解してもらう必要があります。それは、お客さんにはもちろん、内部に対しても売上目標を提示して、目標を達成するための覚悟を示すことが大切です」鹿野さんはご自身がこれまで大切にされてきたものづくりに対する想いを地元である東北のものづくりに還元されています。

今回訪れた『登米町森林組合』『グランコーポレーション』『秋田木工』はそれぞれ自然環境と密接に関わるものづくりをしています。環境に強く影響されるものづくりの難しさや、関わる方の想いの強さを感じた旅となりました。「つくったもので解決するのではなく、つくる過程で解決できることもたくさんあります」と小泉さん。ものづくりは、誰がつくるべきか、どこでつくるか、誰とつくるか、何をつくるかという過程のこと。その過程が最終的にものに宿り、共感の渦をつくっていきます。

秋田木工の工場に佇む曲木椅子
秋田木工の歴史や想いを丁寧にご説明くださる風巻社長
天然乾燥されている材
精密な職人技で金型を製作
金型職人の天童さん
木材を蒸して柔らかくしていきます
めいいっぱい体重をかけて曲木を施していきます
「7・8年経つと見なくても曲げられるようになりますよ」と職人の斉藤さん
大きな釜で燃料を燃やして蒸気を発生させています
kitakami 曲木チェア

kitakami 曲木チェア

テレワークを意識して開発した家具。ダイニングでの使用はもちろん、家庭でのお仕事やオフィスでの使用も意識しています。
小泉誠さんにお願いしたデザインは、今までの曲木家具にないシンプルかつ機能的な構造です。
特に背もたれが腰をサポートするように考えられているのが今までにない特徴です。(アンダイホームページより抜粋)