5枚ルール

2025.01.30

「こいずみ道具店」は、築60年の木造家屋をリノベーションした建物。自分たちの仕事場なのでこだわりも強く、図面に引く全ての「線」に意味と秩序を見出すことに時間を費やし、なんと設計に3年も掛かってしまった。その甲斐もあってか、この空間には違和感や視覚的ノイズがなく、日々心地良く使っている。そんな場所を学生や工務店の人達が興味を持って見たいと来てくれるのだが、一つだけルールを作っている。それが「写真撮影は5枚まで」というもの。このルールを伝えると皆さんザワつくが、写真が撮られるのが嫌で言っているのではなく、一生懸命に設計をしたので、眼で見て身体で感じて欲しいという思いが強い。結果的には、じっくりと体感して、図面に書いた線の意味に気づき、その気づきを楽しんでくれている。写真は「記録」としては残るが「記憶」としては残らない。デザインのトレーニングには「良い記憶」が大切なので、それを促したいと思ってのルールが「写真は5枚まで」ということ。

と、偉そうなことを言っているが、こだわったラーメン屋で、食べる前に写真を撮った客に「さっさと食べろ!」と言っている頑固オヤジの姿が脳裏に浮かんだ…。「一生懸命つくったんだから、美味いうちに食え」と、美味しい「記憶」を持ち帰って欲しいとう気持ちは、頑固オヤジと同じなのかもしれない。

こいずみ道具店
竣工:2013年
施工:幹建設
写真:Nacása & Partners Inc. / 村角創一