家も家具

2022.12.14

「家具」って何? と聞かれたときに、建築業界では「建築を逆さにした時に落ちるもの」と乱暴な表現をします。確かに椅子やテーブルは逆さにしたら落ちますが、家具デザイナーとして、この言われ方がとても気に入らない!そんな家具について幕末に日本を訪れた欧米の人たちが「家具の無い国、日本」という言葉を残しています。家具が無い? とはどういうことなのか、日本の住環境を思い起こすと、そんな言葉も腑に落ちます。日本の和風建築の原型になった書院造りは、床の間、書院、畳、障子、地袋などで構成された、日本固有の情緒ある空間です。この構成要素をおさらいすると、床の間=飾り棚、書院=デスク、畳+脇息=椅子、畳+布団=ベッド、障子=照明器具、地袋=キャビネットと、全て「家具」としての機能が建築のパーツとして備わっていることが分かります。そして書院造りを逆さにしても、家具らしいものが落ちてこない。この様子をみた欧米の人たちが「家具の無い国、日本」と言ったのです。そんなことを思うと、日本の「家具」は欧米のFurnitureとは違い、「家具」は家の中の道具でもあり、家も「家具」だという日本独特の概念が見えてきます。

しがない家具デザイナーが何を言いたいかというと、日本の家具デザインは建築から落とされる欧米の儚い家具とは違い、プロダクトも、ファニチャーも、インテリアも、家も、全てをまかなうことになり、けっこう大変なんだ! ということを吠えているのです。なんて、鬱陶しく言って奮い立たない事には、ただの製品づくりが「家具デザイン」という幼稚な図式になってしまいます。「日本の家具」を固有の文化として持続するためには、建築とともに生活環境をつくることが必要です。家具デザイナーという立ち位置で、しばらく遠吠えをあげていきますので、どうかお付き合いくださいませ。

新建ハウジングプラスワン2017年4月号
連載「家+具|1」小泉誠

文机にもなる窓ベンチ
□堂(群馬県高崎市)
竣工:2020年
施工:ほしかわ工務店
通路に居場所として設けた箱sofa
a-soko(東京都清瀬市)
竣工:2020年
施工:相羽建設
家具のような小さな家
つむじ舎庫(東京都東村山市)
竣工: 2015年
施工:相羽建設