感覚の定規

2023.09.14

古家を改装している「こいずみ道具店」に、建築家や工務店らしい人が来ると、こそこそとメジャーを取り出し至る所の寸法を計っている。かくいう僕もデザイナーという仕事を目指すために「計る」という行為を学生時代に訓練され、気になる寸法に出会うと、計って計って計りまくっていた。30歳を過ぎて「計る意味」を自問したところ、寸法に捕われていた自分を知り、数字を疑い、感覚を信じるための訓練をするようになった。今まで気になっていた寸法も「心地いい」「空気感がある」「丁度いい」などの感覚として捉えて、寸法を計らずその感覚を記録にとどめる事にした。

そんな、手摺の触った感覚や、テーブルの角の感覚やなどを図面に書きたくなる事も多く日々困っていた。そこで、四角い木塊の12角に0.5mmピッチのR面を取った「角面」を感じられる定規をつくってみた。デザイン作業時にこの定規を触りながら「今回のテーブルの角はこれくらい感触がいいなと」思い、その角の数字を読みとり図面に書けば、その感触が再現できるという、かなりマニアックな道具。この定規、今では大学の小泉ゼミの第一課題として学生自ら面を削り制作している。木の香り、小口とコバの硬さの違いを知り、木の話に耳を傾けるきっかけにもなる。たかが定規だが、寸法以外にも伝わることもあるという、とても素敵な定規の話でした。

新建ハウジングプラスワン2018年6月号
連載「家+具|14」小泉誠

Photo:村角 創一
長さや重さを測る道具は色々ありますが
家具デザインで肝心な感覚を測る定規がありません
この定規は「角」の感触を測る定規です。